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中越地震の被害−実態と特徴−
2004/12:財団法人新潟県地域総合研究所での講演記録です。
(2005.2.22)

 
地震の被害が実際のところどうなのかということですが、一言で言って現地はたいへんです。
 小千谷市のある醸造会社では、ほぼ全壊で生産不能という状況になっています。この会社
は新潟県内の醤油の5割くらいを生産しています。「このままでは県内に醤油の供給ができな
い」という事態になりました。そこでどうしたか。長岡市の宮内でやはり醤油を作っている工場
があります。小千谷市と長岡市の会社を合わせると、たった2社で県内の7割くらい作っていま
す。長岡市の会社も被害は受けたのですが、なんとか生産はできるということで、長岡市の会
社の営業終了後、小千谷市の会社が従業員をそちらに派遣して夜間に製造する。そんなこと
もしながら何とかやっています。スーパーが店を閉鎖する、小千谷のジャスコも撤退するような
話があります。雇用関係にも大きな影響があると思います。
 問題はどんな被害があるのか。県は被害総額3兆円と言っております。震災の概要は表1■
の通りです。問題は非常に広い面積が被害を受けたということです。4707キロ平方メートル
が今回の中越地震の該当エリアです。この面積は、富山県、石川県、福井県それぞれに匹敵
します。新潟県そのものがこの3県の合計とほぼ同じ面積がありますので、新潟県の3分の1
を被災地域が占めるということで、そういう広大な面積になります。人口もかなり多く、当該地
域の人口は福井県の人口に匹敵します。被災した中越地域は、山間(やまあい)の非常に狭
隘なところにありますので、地盤崩壊で被害が拡大しています。これが平坦な土地であればそ
ういうことは起きませんでした。人的被害としては、40人の死者、負傷者が4490人です。住
宅は全部合わせると9万8千棟くらいです。阪神・淡路大震災のデータ(表2)を見ると、死者が
6433人、負傷者43792人、倒壊・半壊が249100棟とあります。この数字だけを見ている
と、中越大震災はきわめて小さな地震に見えてしまうのです。
 とくに死者40人というのは、火災が起きなかったためでもあります。火災が起きなかった理
由は、北陸ガスが全世帯に一定規模の地震があった場合にはガスが自動的に止まるという装
置をつけていたからです。阪神・淡路大震災のときはそういうものはありませんでした。中越地
震の場合には、自動的にガスが止まって火事が起きない。したがって、倒壊家屋のなかで孤
立した高齢者等が焼死するということがなかったのです。倒壊家屋についても、全体的な家屋
の戸数が少ないという意味もあるかもしれませんが、雪を考慮してかなり頑丈に作ってあった
という面もあるかもしれません。いずれにても、この数字だけではなかなか被害の実態が言い
尽くせないということを、国にもほんとうにていねいに説明しなければならないと思います。

震災被害と豪雪の意味
 被害地域ではこれから冬になり、雪が降ります。「雪が降るとたいへんだ。2メートルくらいの
雪が降る」とさかんに言われますが、2メートルの雪にために生活はどういうことをしなければ
ならないのか。そういう報道がされていないのです。たとえば、30坪の家屋に2メートルの雪が
積もった場合、その雪を30坪の面積に均等に雪下ろしをしたらどうなるか。すでに、その雪を
下ろす場所でも雪が2メートルあるわけですから、雪の重さで若干は低くなるにしても、単純に
計算して4メートルの雪かさになる。けれども、30坪の建屋に30坪の空き地が付いているとは
限りません。せいぜい5坪があればいい方でしょう。仮に5坪であれば、30坪の家屋の雪を5
坪のところへ下ろせば6倍になります。2メートルの雪が12メートルの高さになる。雪下ろしを
する前に、その空き地には屋根と同じ雪が2メートルありますから、14メートルの高さになる。
道路も同じです。「田舎の道路のくせに幅が広い。あんな道路を作るから被害が大きくなってい
るんだ」と中央の方から聞こえてくる声があるのです。雪が降ると道路は半分しか使えません。
なぜならば、除雪した雪を脇に積み上げるわけです。2メートルすでにある脇に、2メートルの
雪を積み上げますから、合計4メートル積み上がります。田んぼはどうか。2メートルの雪が積
もった田んぼの上に、さらに除雪した雪を2メートル撒き散らした場合になにが起きるか。春に
なってもなかなか雪が消えませんから田植えが遅れる。したがって米の生産が遅れる。基本的
な経済の基盤が崩れる。いろいろな意味合いのものをていねいに説明しないと、国や都会の
人たちには、私たち新潟県における地震の実態はなかなか理解してもらえないと思います。
 あまつさえ崖崩れなどがあるわけです。都会の目から見ますと、「崖崩れや斜面の崩壊なん
か放っておけばいい」ような雰囲気になってしまいます。「山古志村はたいへんだ」と言っても、
返す刀で「あれ2200人しかいないじゃないか。2200人の人口のために何をするんだ」と言
われる。新幹線は止まってしまいましたが、1日の新幹線の利用客は2万人です。2万人のた
めに新幹線が止まって大騒ぎしています。「山古志村は2200人だ」。そういう声が聞こえてき
かねないし、もう聞こえている部分もあります。

新潟県の被害金額推計を読む
 新潟県は、被害総額が3兆円と言っております(表3)。表3のそれぞれ数字の後ろに「程度」
と付いていますが、これは県の発表にすでに入っています。これは11月17日までの間に算定
されたものですが、激甚法や災害特例法などのために急きょ策定されたもののようです。たと
えば「インフラ関係」の1兆2千億円という場合に、新幹線の利用客が1日2万人だったのが4
千人程度に減っている。そうすると、新潟−東京間の運賃を2万円と考えると、2万円にその
減少した人数をかけて30日分を見る。1カ月50億円くらいになります。2カ月半として100億
円減少する計算になります。そういう計算を積み上げているようです。新幹線の実際の被害は
いくらなのか、という計算ではなく、一種の想定積算です。「インフラ関係」がどうして1兆2千億
円になるかと言うと、いちばん大きいのは斜面の崩壊です。どうも1件当たり5億円くらいの斜
面崩壊を考えているようです。斜面というのは、道路の法面■(のりめん)の斜面もあります
が、山の斜面もあります。法面が崩れて道路を塞いだり、道路のアスファルトが壊れたという場
合は、道路の損壊ですが、斜面が崩れているだけで道路と関係がないというケースがかなりあ
ります。しかし、それを放置しておけば道路もいずれ崩れ、住宅も崩壊する。だから、直さなけ
ればならないのです。なにしろ山の斜面です。下の方からずっと積み上げて工事をしていかな
ければなりませんから、それで1カ所5億円と見ているようです。それでは斜面の崩壊はいった
い何カ所あるのか。これがまたよく分からなくて、道路などの暫定数値から計算している。そう
いったもののなかで、5億円かけて直さなければならないのは、全体の何割かというような推計
から出ています。
 「農林水産関係」ではこれは4千億円となっています。あくまで想像ですが、錦鯉の市場規模
30億円が仮にゼロになったとしても4千億にはなかなか届きません。他方で、被災地域のコシ
ヒカリの作付け面積は13500ヘクタールとなっています。4千億円という計算は、阪神・淡路
大震災のときの数値を参考にしているようです。阪神・淡路大震災のときの農業被害が736
億円とされています。中越地震の被災地の耕地が13500ヘクタールなのに対して、阪神・淡
路のときには1700ヘクタールでした。そこから控えめの係数で乗除の計算をして、出てきた3
千億円台の数字を少し切り上げたというのが、どうやら実際らしいのです。
 いずれにしても、国からいろいろな資金を引き出さなければならない。そのためには、被害の
根拠は必要です。しかも早急に出さなければならないということから、かなり平均的な数値を使
っているようです。
 「建築物(住宅)」の7千億円についても、地震保険の支払い実額が11月のこの時期までに
140億円あった。件数は1万件である。1件当たり140万円です。火災保険の当該地域にお
ける加入率が40%あり、そのうち地震保険加入率が11%である、といったものから計算され
たらしいのです。なぜそうなるか。住宅被害を正確に出すためには、住宅の1軒1軒について
「全壊か、半壊か、一部損壊か」を調べなければなりませんが、住民との意志疎通の問題があ
ります。住宅の数も多く、また非常に広範囲のエリアに散らばっていますから、とても短期間に
は調べられない。
 そういう事情もあり、新潟県による被害金額の算定は3兆円と出ておりますが、基本的には
この被害金額をきちんと積算した数値で話していくのは難しいかもしれません。そうは言って
も、国との対応のなかでは、こういった推計をするのは時間的にやむを得ないということも含め
て、ていねいに説明していく必要があるのだろうと思います。

県内経済へのマイナス影響と「被害推計」の意味
 日本政策投資銀行がつい最近間発表した、たいへんていねいなレポートがあります。要は、
「新潟県の生産活動が地震にともなって1割停止した場合にどういう影響が出るか」ということ
です。生産の縮小は2千億円、雇用機会の喪失は1万3千人という計算です。これは産業連関
表に基づいてやっています。言葉を変えれば、復旧に向けたひとつの投資があれば、それに
対しての生産活動の増加もしくは雇用の増加が考えられます。マイナスという判定が、時間の
経過とともに同額のプラスになるという可能性も秘めた影響なのだろうと思っています。
 表4と表5は激甚法指定のために急きょ算定されたもので、住居や道路が入っておりません
ので、非常に少ない数字に見えます。表6は長岡市の被害ですが、これはかなり積算をして出
しております。やはり早い時期の調査であればあるほど、企業も個人もなかなか被害の金額
が分からないのです。復旧工事の業者は高い見積を出して再建後の安全を図りたいのでしょ
うが、お金を払う側は少なくしたいのかもしれません。だいたいにおいて被害件数・戸数が多す
ぎて業者も対応できないという状態ですから、かなり目分量の部分があります。表7の十日町
市の被害推計(サンプル調査)では、サンプル調査をベースにして、「全体ではこうであろう」と
いう想定になっています。
 被害金額というものは、これからの予算措置、国の助成あるいは補助、個人の住宅関係の
補助も含めて、いろいろな決定のベースになりますから、少ないよりは多い方がいい。しかも急
がなければなりません。1年や2年という時間はかけられません。だから、どうしてもある程度
アバウトなつかみになると思います。しかし、それが決して不正確であるとは言えないのです。
最終的な被害金額はだいたい被害金額推計に近いところに落ち着くというのが、これまでの統
計処理の結論です。
 大切なことは被害の実態を推計する場合の考え方の背景です。それは中越という地域の特
殊性です。平らな場所の地盤の崩れは、地割れが起きていても、何か持ってきて埋めれば終
わりなのです。ところが中越地域は斜面です。山古志村などはほんとうに斜面だらけです。無
事なときには棚田の美しい農村地帯でした。その斜面が崩れているということは、ほんとうに下
の方から土止めをやっていかないと、崩壊が止まらないのです。たった1カ所の地盤崩壊が、
高低差によっては500メートルくらい下の谷底から積み上げていかないと元に戻らない。

ていねいな被害実態の説明を
 そういったことを、ひとつひとつていねいに国に説明していかなければなりません。それが足
りないと、阪神・淡路大震災の死者6400人と40人を比べられたり、「全村避難はたかだか2
200人ではないか」と言われたりしかねない。そこに個人的には危惧を感じています。
 いずれにしても大きな災害です。相対的に経済力の弱いエリアでの震災ですから、同じ金額
でも地域社会におけるダメージは大きく、復興の体力に比して非常に過大なものになっている
と思います。したがって1市町村あるいは新潟県だけではなく、国からのさまざまな助成はどう
しても必要ですが、よく説明しないとなかなか理解してもらえない被害の実相があると思いま
す。
以上
<新潟県中越地震に関係するページです>
No.328:新潟県中越地震(1)(2004.10.25)
No.329:新潟県中越地震(2)(2004.10.26)
No.330:新潟県中越地震(3)(2004.10.27)
No.331:新潟県中越地震(4)(2004.10.29)
No.332:新潟県中越地震(5)(2004.10.30)
No.333:新潟県中越地震(6)(2004.11.2)
No.336:新潟県中越地震(7)(2004.11.7)
No.337:地震の影響を受けた株価(2004.11.8)
No.338:地震の影響を受けた株価について補足(2004.11.9)
No.340:日本雪工学会の全国大会:地震対策(2004.11.15)
No.341:新潟県中越地震の特色−−阪神との比較(2004.11.17)
時事評論:No.37:新潟県中越地震:補筆3−−「地震の中の景気」
No.36:新潟県中越地震:補筆2−−「災害に強いふるさとを」
No.35:新潟県中越地震:補筆
経済産業論;No.16:「新潟県中越地震−−頑張ろうではないか」



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