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潟県の産業経済と文化「風知草」のホームページ
「随筆・コラム(新潟県の文化論)」
2008.5「地方自治」5月号掲載の全国知事会地方自治先進政策センター・頭脳センター専門委員としての論文を
転載します。
「新潟県における雇用の課題」
全国知事会地方自治先進政策センター・頭脳センター専門委員
新潟県経済雇用問題研究所
理事長 松田 宣治
フリーターやニートに代表される就職困難者への対応策は、新潟県でも全国同様大きな課題
になっている。その対策のひとつとして新潟県地域労使就職支援機構による「労使懇談会」の 運営がある。この懇談会は、労働者団体、企業経営者、経営者団体の三者に加えて新潟県 内のハローワークや新潟県地域振興局の労政部門など、雇用関係者によるものであり、200 6年度ならびに2007年度に各年度数度にわたって開催された。私はこの懇談会の座長を務 めながら、新潟県における雇用の課題を検討した経緯がある。
本稿は、そのような討議の内容を加味しながら、雇用問題の現状をみる。なお、文中の関係者
発言の引用は特に注記がない限り、前述「労使懇談会」の報告書である両年度の各『労使懇 談会の記録』(新潟県地域労使就職支援機構)による。
(1)労働力の流出
新潟県の人口は、240万7430人である(2007年10月1日現在推計人口)。このうち労
働力人口は、148万699人である。この労働力人口をピークの163万7657人(1985年、 国勢調査)と比較すると15万6958人もの減少になる。これは年平均▲0.46%の減少率で ある。新潟県の労働力人口は、バブル景気の初期にピークをつけ、その後減少を続けてい る。
これを同時期の15歳から34歳までの若年労働力でみると、62万8451人から51万6602
人にまで減少した。この間の年平均増加率は▲0.89%である。全体の減少率以上に若年者 での減少が大きく倍に近い。この要因には、少子高齢化の進行による自然増加率のマイナス (2006年、▲2.1%)がある。同時に直近5年間の累計でも3万人に近い流出をみた社会増 減の影響も大きい。
新潟県産業は、労働力吸収の力を低下させているかのようであり、「労働力供給県」としての
負担の大きさを垣間見る。
このことは、バブル崩壊以後の10数年間「一人の新卒採用も行わなかった」製造業の存在
や、技術の継承や温存のために定年退職者の継続雇用を行う結果「、5年後には平均年齢が 50歳を越える可能性」を指摘する声にあらわれる(米菓製造業)。
新潟県労働力は相対的に高齢化し、若年労働力の流出速度をはやめている。
(2)効率性の低さ
新潟県産業の特質のひとつには、地場産業があるとされる。それは燕三条地区の金属加
工業に代表されるように地域社会の環境と歴史に根ざした産業形態である。また明治大正期 には石油が大量に湧出したことから関連の機械産業が勃興し、この結果が広く新潟県の工業 を彩ってきた。
しかしながら、歴史の長さは一方で中小零細性を残し、新潟県産業の効率化に課題を残して
いる。たとえば、工業部門の従業者数は、20万1728人(2005年)であって、この人数は、全 国都道府県の中では15番目に位置するものの、従業者一人当たり出荷額等は、同時期に2 299万円にとどまる。これを全国都道府県の順位でみると、42番目まで後退する 。
従業者数の多さは、必ずしも産業活力の高さを示していないのであって、まだまだ効率化を推
進すべき余地は多くある。
一方、合理化策のひとつとして海外進出による労働力の国外流失が生じたことも指摘 できよ
う。「日本の製造業全部が中国にシフトしたことが最も大きい」(米菓製造業)との見解である。 新潟県の地場産業のひとつである米菓産業を担う同社では、たとえば、「中国工場は従業員 が200人くらい、アメリカの合弁会社でも200人くらい」の現地従業員がいるとする。地場産業 のジャンルでも「ものづくりが空洞化した」ことが、雇用吸収力を減殺している最大の要因であ るとの指摘である。
(3)地域間格差
2007年度は売り手市場ともてはやされた雇用環境であるが、昨今の就業状況は必ずしも円
滑とは言い切れないようである。
2007年1月に1.16倍のピークをみた有効求人倍率は、その後低下傾向にあり、2008年2
月では1.01倍まで低下した(全数・季節調整値)。これを、県内15のハローワーク管内ごと にみると、1倍を越えている管内は5箇所にとどまる。残り10箇所は1倍を下回る。最高は糸 魚川管内の1.51倍であるが、最も低い新津管内では0.57倍 であって、両者の差は3倍に 近い。
新津管内は、従前は新津市として独立した行政エリアであったが、現在は政令指定都市であ
る新潟市の一角を占める。このことから新潟市への企業の進出ないし移転による雇用流出が 想定される。同時に地元有力地場産業であるニット産業が、海外製品との競合下で苦境に追 い込まれていることも推測される。
新潟県の面積は、富山県、石川県、福井県三県の合計面積に相当する。その広大さは地域
間の自然や社会条件から来る格差を生じやすいのであるが、雇用面でも地域間格差が広が っている。
(4)低い所得
新潟県民は"働き者"であるという。このことは冬期間の厳しい環境が培ったイメージかもしれ
ない。とはいえ、夫婦共稼ぎの世帯比率は3分の1を越える(36.19%、全国第4位)。それを 支えている社会環境のひとつは、高齢者世帯との同居であって同居率は5割に迫る(46.1 8%、全国第4位)。結局、一家総出の労働が"働き者"のイメージを膨らませ、世帯全体での 合計の所得を高め、これが持ち家比率の高さに結実しているといえる(74.9%、同6位)。
しかし、一人あたり県民所得は決して高くはない(269万円、全国第23位 )、共稼ぎ率の高さ
は、世帯主の所得だけでは生計が成り立たないことの裏返しかもしれない。ストック面ではとも かくフロー面に課題を内在する実態がある。
(1)非正規雇用の増加
景気悪化の中で企業は人件費コストの削減を図った結果、非正規の労働力に軸足を移し
ている。
2006年度の新潟県における非正規雇用に対する求人は21万1506人であった。バブル期
の1990年と比較すると、8万人強の増加になる(年平均増加率3.34%)。
一方、この間の常用雇用求人は9万人強のマイナスをみており、その年平均増加率は▲1.2
7%である。労働者は正規雇用での就職機会を削減され、非正規雇用に移らざるを得ない。 結局、非正規雇用でも良いとして求職する労働者は同時期に8万5474人から15万452人 に増加した(年平均増加率3.60%)。
このような非正規雇用への大幅なシフトについて、新潟県労働界における有力幹部の一人
は、正規の就労が「3分の2を下回りつつある状況」とし、この状況の中に「団塊の世代が第一 線から退いてくると、非正規雇用は35%を超えるのでないか」と危惧する。そのうえで、就業に 対する「受け皿の仕組みを作らなかったら、労働政策としてはあまりにも貧弱すぎるのではな いか」と指摘する。
実際にも製造工場を保有する大手食品スーパーでは、「朝4時ないし5時から3時間ほど働い
て8時には家族を送り出す」という従業員が大勢いるという。そのうえ、「最近ではシングルマザ ーも増加し仕事を3つかけもちしている」状態の従業員も出てきているとする。また別の食品ス ーパーでは「4300人の従業員の大部分が1日4時間契約のパートである」とする。
(2)雇用の多様化
バブル期は「豊かさ」が謳歌された。そして「豊かさは多様性」とされ、就労形態にも多様性が
主張された。それは複線化人事などに表現されたのであるが、同時にフリーターのように必ず しも人生を貫く職業ではなく、何かの目的を達成するための一時的な就労が、前向きな形で評 価され喧伝された。おかげで、「多様な働き方」は豊かさの表象となる。非正規雇用増加の背 景には、このような豊かさへの憧憬があったといえよう。
卒業時に「将来の職業をフリーター」としてはばからない若者を生んだのもこの時期である。2
4時間操業の工場が出現し、「週40時間の勤務を前提に勤務時間を完全にフリー」にする製 造業も現れた(スプリング製造)。
このようなことが雇用の多様化として是認されることなのか、非正規の雇用が普遍的になって
いることからやむを得ない事態になっているのか。労働者にとっては厳しい現実が横たわる。
(1)就職機会の逸失
バブル経済破綻後の就職氷河期以降、適切な職に恵まれなかった若者の多くは、フリーター
や派遣の世界に進まざるを得なかった。新潟県では1万4000人がフリーターとされ 、さらに1 5歳から34歳までの引きこもりは8000人存在するとされている。
しかし、フリーターやアルバイト、派遣などに長く従事した若者は、適切な訓練を受けていない
現実がある。「挨拶も十分にできない」との指摘があり「フリーターや派遣の経験者は使えな い」との声も聞く。若い労働力の多くが非正規雇用にシフトせざるを得ないことになれば、この ような人材は適切な戦力として認知されなくなる。
しかも正社員が担ってきた専門・管理・技術系の仕事をパートタイマーなどの非正規雇用に切
り替えることがすぐに可能かといえばそうでもない。「パートタイマー化が進めば進むほど仕事 の伝承が難しくなり正社員の負担が増加する」(流通業)との指摘は、技術伝承の課題は、製 造業のみならず流通などの分野にも及ぶことを示唆する。
(2)新規採用凍結の経営判断
企業のコスト圧縮努力は人件費の抑制に向う。「バブル崩壊以後7年間採用を凍結」した企業
(化学)も生まれた。3年前からようやく高卒の採用を再開したものの、人事構成に問題が生じ ており、「7年前に入社した人はいつまでたっても一番下であるために、7年たてば一人前にな れるはずがなれない」との問題を指摘する。いわば「人材が腐り始めている」との指摘である が、当時は必要とされた経営判断だった。やはり、「新規卒業者を定期的に採用することが重 要」との指摘は多く聞かれるのであるが、景気下降期にコスト対応からやむを得ず採用を手控 えた経営スタンスからみれば、あくまでも結果論かもしれない。
正規雇用圧縮の背景にはこのような経営判断の集積がある。当然このような経営のあり方が
普遍的になればなるほど、就職困難者は増加することになる。
(3)地域経済への負担
就職困難者の存在は、当人のみの問題にとどまらず、社会保障システムへの影響を含め、経
済産業基盤に重要な影響がある。地域経済への負担は相対的により大きくならざるをえない。 昨今の若者が引き起こす陰惨な事件には、無業の実態やこれに伴う引きこもりが指摘され る。
とはいえ一般的には、就職困難者は本人の意思や心構え、努力不足などがもたらした結果と
みられやすいのが現実である。しかし実際には本人の意思や努力に関係なく、就職機会に恵 まれなかったために生じた就職困難者は少なくない。このことに私たちは注意を向ける必要が ある。
通常就職困難者とは、障害者、高齢者、生活保護受給者、母子家庭、児童扶養手当受給
者、刑務所出所者、外国人などの課題であったが、既述のように昨今は若年者がこれに加わ る。
(1)政策面
政府は、「若者自立・挑戦戦略会議」においてアクションプランを策定。経済界、労働界、マスメ
ディア、地域社会、政府行政などが一体となって取り組む「若者の人間力を高める国民運動」 を展開する。これを受けて「フリーター25万人常用化プラン」を策定し、全国の都道府県別に 目標を掲げ政策実現を図っている。
この政策の要点は、フリーター25万人を常用雇用化しようとするものであり、併せて若者の働
く意欲や能力向上のための取り組みを図る。このため、既存のジョブ・カフェやハローワークで の就職支援事業を強化するとされている。
新潟県においても、この政策実施に応じて毎年3200人の常用化を目標として掲げ、その必
達を目指している。このため、フリーター対策について新潟市と長岡市には「ジョブカフェにい がた」「ジョブカフェながおか」を設置して、若者のための雇用のワンストップサービスを目指し ている。また上越市には「若者しごと館上越サテライト」(ジョブカフェじょうえつ)を設置した。ニ ートや引きこもりの就労支援でも「地域若者サポートステーション」を新潟市のほか三条市にも 設置している。
このようなハードの面だけではなく、ソフト面の充実はより喫緊の課題である。カウンセリング・
職場体験やセミナー等の実施のほか、トライアル雇用や職業訓練、デュアルシステムによる実 践型訓練の実施など、就職支援活動は幅広い。「若年者就労支援ネットワーク会議」を発足さ せ、各ハローワークでは「若年者就職支援コーナー」をスターとさせた。4月からは、「職業能力 形成システム」(通称「ジョブ・カード制度」)の発足が決まっているが、新潟県では3月に先行実 施し、求職活動の便宜提供に努めている。
このような関係者の努力の結果、フリーターの常用雇用化目標3200人は、2007年度は目
標をクリアーしており、2008年度も達成は確実とされる。
しかしながら、もともとフリーターであり、ニートである若年労働者が、このような施設に出向くこ
とは少なく、その利用は「極めて低い」との指摘がある。雇用関係者によれば「若者しごと館」 は、「オープンして3年になるが残念ながら毎日のように混雑しているようにはなっていない」 と、これらの指摘を首肯する。
(2)トライアル雇用
就職困難者への対応策のひとつであるトライアル雇用は、3ヶ月の試用期間を是認しているこ
と、また採用企業には奨励金の支給が行われることから重視される。
この制度は若年労働者の中でも改善が遅れている25歳から34歳までの年長フリーター対策
に有効とされており、労働者にとっても未経験の職種への就業チャンスが広がる利点がある。 このため、新潟県ではかなりの普及実績があり、2007年度新潟県全体の実績1900件のう ち7割以上が常用雇用に移行した。2008年度も順調に推進され、取り扱い件数は1600件 を超えている 。これは隣接他県よりも好成績と聞く。
とはいえ、問題点もある。実際にトライアル雇用で採用になり、2年を経過する女性(34歳)
は、「トライアル雇用はどういうものか、きちんと理解しておれば怖いものではなく喜んで受け入 れられると思うが、当時はどのように捉えてよいのか分からなかった」とする。そのうえで、「30 歳を過ぎた年齢では、3ヶ月という期間は非常に怖い期間だった」という。3ヵ月後にだめとい われた場合を想定すると、トライアル雇用は不安感が伴ったというのである。現在管理職とし て働く同氏は、「労働者、事業主双方に理解してもらう場を設ければ利用も増えるはず」とい う。
またトライアル雇用で長距離便の運転手を採用している運送会社では、ある程度年齢を重ね
た労働者の方が安全運転が可能であるとの観点から、30歳代後半を希望するのであるが、 「この制度では35歳から44歳までの働き盛りが対象になっていない」とし、使い勝手の悪さを 指摘する。安全運転の観点から良い人材であれば未経験者でも採用したいとしても、「今のま までは未経験の職種に対する制度の良さを活かしきれない」との指摘である。トライアル雇用 が若年労働者を念頭に置いた制度としてスタートした経緯からはやむを得ないことであろう が、安定した雇用の実現のためには、制度の柔軟な仕組みが必要と思われ、もう少し検討し てよいかもしれない。
就職困難者への対応策が雇用関係者の間で真剣に論議され、国の政策も動き出しているの
であるが、現実的な対応策にはまだまだ課題が残る。
(3)継続雇用
就職困難者への対応を難しくしているもうひとつの観点は、定年退職者の問題かもしれない。
適切な職業訓練を受けていない若年労働者の増加は、定年退職者の継続雇用の必要性にも つながる。年金受給年齢と技術の伝承の必要からも継続雇用が行われる。
継続雇用は、高齢者にとっては便利な制度であり、新卒採用を長期にわたって実行しなかった
企業ほど技術の継承の面からも重視する。「参拝九拝して残ることをお願いしている」(機械製 造業)企業は多いのであって、その分、若年労働者への配慮は薄くなっているかもしれない。
「一線を退くと責任感が毎年トーンダウンしてくる。会社、組合が期待するパフォーマンスが発
揮されていない」との指摘もあって社内で育成するのが最善なのであろうが、その時間を失っ ている実態を垣間見る。
(4)適切な職業観の育成
景気動向を主因にして発生したのが若年労働者の就職困難者であろう。そこには、本人の
資質も影を落としていることは否めない。
しかし、就職機会の逸失のみではなく、働くことへの適切な職業観育成や進路指導等、教育現
場での指導の不備も感じられる。たとえば、観光バスガイドは泊りがけの出張は普通である が、家族に要介護者がいたりして泊まりがけの出張が不可能な者を「学校は推薦してくる」(バ ス会社)と指摘し、就職さえ出来れば良いとし本人の適性や家庭環境などを考慮しない教育現 場での対応に、疑問を投げかける。
さらに適切な職業観の指導育成の欠落は、教育現場にとどまらない。30歳を超えたわが子の
人生に対し、「そのうちに何とかなるだろう」とする両親の存在は、家庭における教育力の問題 点を窺わせ、気がかりである。
地域社会は限定的な時間空間を持つ。そのような条件を考慮すれば、「労使が知恵を出しあ
いながら引き上げていく努力をしなければならない」との指摘は、地方における雇用問題解決 のすべての結語になりそうである。 |